コラム Column

コンビニドーナツに見る”イノベーションの起こし方”

ブランド   2015/11/26  

皆さんお久しぶりです。取締役の伊佐です。

前回コラムを書かせていただいてから、気づいたらもう4ヶ月以上経ってしまいました。

久々のコラムですが、ちょうど日経トレンディの『2015年ヒット商品ランキング』が発表されたタイミングなので、その中から1つの商品を取り上げてみたいと思います。

早速ですが、今回取り上げるテーマは「コンビニドーナツ」です。前述の日経トレンディ「2015年ヒット商品ランキング」では見事第4位にランクインしています。

このコラムをお読みになっている方の中にも、「コンビニドーナツ」を目にしたり、購入したりしている方は多いのではないでしょうか?(だからこそヒット商品な訳ですが・・・ちなみに私はよく夕方のおやつとしてローソンのオールドファッションを食べています)

このコンビニドーナツが如何にして生まれ、何故ヒットしたのか?

そこから垣間見える“イノベーションの起こし方”は?

そんなテーマで、今回はコラムを書いてみたいと思います。



~「コンビニドーナツ」は、イノベーション~

「コンビニドーナツ」という言葉が大々的に流通したのは新しいこととはいえ、結局モノは”ドーナツ”な訳で、誰もが一度は食べたことのあるものに変わりありません。ですから、本来のドーナツと比べて「コンビニドーナツ」が全く新しいモノという訳ではありません。

にもかかわらず、私が「コンビニドーナツ」をイノベーションだと表現するのには理由があります。

イノベーションは、よく「革新」「新機軸」という語義から「技術革新」と同義語として用いられます。

ですが本質的には、“新しい技術を開発するだけでなく、従来のモノ・しくみ・組織などを改革して、社会的に意義のある新たな価値を創造し、社会に大きな変化をもたらす活動全般”と捉えるべきでしょう。

つまり、社会的に意義のある新たな価値の創造こそがイノベーションの本質であり、言い換えると、イノベーション=新しいセグメントの創出であると私は考えています。

その意味では、同じドーナツでも「コンビニドーナツ」という新しいセグメントがこの短期間に定着していることが、「コンビニドーナツ」がイノベーションであったことの証明ではないでしょうか。

つまり、「コンビニドーナツ」は、単純にドーナツ屋でしか買えなかったできたてのドーナツをコンビニでも売った、というチャネル拡大の話ではなく、コンビニ利用者自身もおそらくは気づいていなかった、「コンビニに行った時に、お菓子でもコンビニスイーツでも、ホットケースにあるスナックでもない、ちょっとつまめる『何か』があればいいのに・・・」という潜在的なニーズを、ドーナツという形で満たした、「新たな価値」の創造だったということでしょう。

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~「コンビニドーナツ」はどのように生まれ、何故ヒットしたのか?~

実は私が「コンビニドーナツ」の開発と展開の仕掛け人です、などということではなく、最初に「コンビニドーナツ」を開発・展開したセブン・イレブンさんの担当者の方に直接お聞きしたわけでもないので、ここからは私の妄想です。(が、それほど外れてはいないと思います)

まず、「コンビニドーナツ」というイノベーションが起こり、現在のようなヒット商品となるまでには、いくつかのフェーズがあったと思います。


■フェーズ1 コンビニPBの伸長による、生活者の心理的受容基盤
これは今更言うまでもないことですが、経済発展のプロセスの中で、(食品に限らず)多くのメーカーは、商品のカテゴリと数量を急速に拡大し、それに応じた設備投資をしてきましたが、国内市場の縮小によって、余剰生産力を持て余すようになっています。

最近の、「ロングセラーが生まれない」「次々と似たような商品が生まれては消えていく」といった状況は、この余剰生産力を埋めるために、メーカーサイドも次々と新商品を出し続けなければならないという事情があります。

こうしたメーカーの余剰生産力を上手く利用して、最もエンドユーザーに近い小売りサイドが、ニーズに最もマッチした商品を企画・販売するのがPBであり、コストパフォーマンスも含めてそれがニーズを捉えていたからこそ、PBがこれだけ発展しているのでしょう。

そして、今やコンビニPBは、セブンゴールドやセブンプレミアムに代表されるように、付加価値ブランドとして、「ちょっと高くても欲しい(その価値がある)」と認識されるに至っています。

だからこそ、「コンビニドーナツ」のような新しい提案に対して、生活者が好意的に受け入れる、言わば「コンビニの新提案に対する生活者の心理的受容基盤」ができていたのでしょう。

加えて、メーカーサイドとの関係構築によって、技術的なものも含めた開発・物流基盤が固まっていたことも、重要な要素だったことでしょう。


■フェーズ2 コンビニカフェの成功によるニーズの醸成
コンビニの新提案と言えば、「コンビニドーナツ」以前の成功例として、コンビニコーヒー(店頭でドリップコーヒーを提供)が挙げられます。

消費者は、それまで「コンビニで買えるのはRTD(そのまますぐに飲める、缶やチルドカップ等の形態の)商品だけ」という認識でしたが、コンビニの店頭で、カフェチェーンに劣らない味・香りのドリップコーヒーが飲めることを驚きと共に受け入れ、コスパの良さもあってオフィスワーカーを中心に爆発的に浸透しました。

このこと自体もまさにイノベーションですが、重要なのは、このコンビニカフェの浸透によって、「美味しいコーヒーに見合った美味しい食べ物」のニーズが、おそらくは「消費者自身も明確に認識できないレベル」で高まったということです。

また、おそらくこのコンビニカフェの登場が、長くコンビニの店頭レジ横で手に入るものは、ホットケースの商品(ホットドリンク、肉まん系、ホットスナックなど)だけだ、という固定観念を壊していたことも、フェーズ1の心理的受容基盤をより強固なものにしたと考えられます。


■フェーズ3 『コンビニコーヒー × ○○ = 新たなイノベーション』の最適解としての「コンビニドーナツ」
こうした流れの中で、「店頭で」「コーヒーとセットで」自然と消費者に受け入れられる商品として、「コンビニドーナツ」が世に出され、急速に浸透していったのだと思います。

しかし、何故ドーナツだったのか・・・?

カフェチェーンのようなショーケースに並んだスイーツでも、もっとカロリーを抑えて少量でも満足できたりするようなお菓子でもなく、ドーナツ・・・

さぞ多くの要因と、多くの選択肢の中で出された結論だったと思いますが、おそらく、

・コンビニという店舗形態:狭いスペースで、たくさん並べられる
・コンビニコーヒーとセット:ドリップマシーンと並べて売れる
・既存の棚との兼ね合い:他を圧迫しないので、一律に導入できる
・新規性(目新しさ)が高い:既に並べられているものでは出せない新しい価値を出せる
・消費者のニーズ:一日の「食事」以外のタイミングで、それなりにお腹を満たしたいが、コンビニのチルドコーナーの「コンビニスイーツ」はちょっと違う・・・

このような観点で選択肢を絞り込んでいった結果、「コンビニドーナツ」に行きついたのではないでしょうか。

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~「コンビニドーナツ」のヒットから垣間見える、“イノベーションの起こし方”~
こうして見てくると、如何にも「コンビニドーナツ」のヒット=イノベーションが、起こるべくして起こったように思えてきます。

そこで、少し俯瞰して、この「コンビニドーナツ」のヒットから”イノベーションを起こすための要素”を抽出してみることにします。

①徹底的に「顧客起点」で考え抜き、自社の強みと結びつける
コンビニに来た人、コンビニカフェのユーザーが、何を感じているかを考え抜いた上で、コンビニという業態の特性やこれまでに培ったナレッジ、パートナーの特性などと結びつけることができたからこそ、「コンビニドーナツ」は生まれたと言えるでしょう。

②「マスの声(調査結果など)」を無視する勇気をもつ
①と相反するように聞こえるかもしれませんが、「顧客起点」と調査結果などのマスの声を聞くことは、イコールではありません。
例えば、市場に出す前に「コンビニでできたてドーナツを売っていたら買いますか?」と聞いても、おそらくそれほど高い反応はなかったでしょう。「カロリー高そう」「重そう」「他でも買える」「今更ドーナツ置かれても・・・」などの声の方が多かったはずです。

多くの消費者は、「既に市場に出回っているモノやコト」を通じて自分のニーズを認識することが多いからです。よく言われる「潜在ニーズ」とは、「生活者自身も認識できていないニーズ」であることがほとんどで、調査からダイレクトに出てくることは稀です。

少し違った言い方をすれば、市場に出して初めて、生活者が「あぁ、自分はこれが欲しかったんだな」と認識する、気づきを得られる商品や価値こそが、イノベーションのひとつの側面です。

だからこそ、①を徹底して仮説をブラッシュアップした上で、最終的には「マスの声」を恐れることなく意思決定することが求められます。

③やると決めたら、徹底的に選択と集中し、ヒットするまでやりぬく
これも実際には非常に難しい経営判断になりますが、資源の逐次投入ではイノベーションは起こせません。
最終的には、「決めたことを成果にするまでやり抜く」スタンスで臨むことが必須です。(逆説的に、そうするだけの社内の検討と合意形成をすることが必要、という言い方もできるかもしれません)


成熟市場で要請の高まる「イノベーション」ですが、実際に成功した例は少なく、日々お悩みの方も多いはず。

今回のお話が、少しでもそんな方のお役に立てば幸いです。

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