松竹と言えば、歌舞伎はもちろん映画をはじめとしたエンタテインメント領域で、誰しもにとって馴染みのある老舗企業だ。伝統と誇りを大切にするだけではなく、変化を求めて動き出したのは2016年のこと。以来、広報・経営企画・人事を中心として、部門を超えた協力体制で「2020年ビジョン」実現に向けて歩みを進めている。「2020年ビジョン」に込められた思いとは何か、そしてどのようにして社員へ浸透させていったのか。広報・経営企画・人事、各部門の推進者に話を聞いた。
(※上記写真は、松竹の社内報の一部)


対談前編:創業123年松竹に見る、老舗企業の組織変革の現場。前編

会社概要
(松竹グループ)
1895年創業。映像事業、演劇事業、不動産・その他事業の3つを主体とする総合エンタテインメント企業グループ。タレント・俳優養成及びマネジメントの松竹芸能株式会社をはじめとして、18のグループ会社を擁する。

■プロフィール
・松竹株式会社 
  経営企画部 広報室 室長 村上 具子氏
  経営企画部 経営企画室 室長 岡田 敦子氏
  人事部 人事戦略課長 兼 労政スタッフ 黒﨑 淳史氏

・株式会社フォワード
  シニアマネージャー 齋藤 雅英

「変わらない想い」と「時代の変化」でつくられた、新・求める人物像

齋藤雅英(以下、齋藤):2020年ビジョン「総合エンタメ企業」の実現のために中期経営計画が策定されました。さらには、求める人物像も刷新されたということですが、「新・求める人物像」についてもお聞かせください。


後編-2

経営企画部 経営企画室 室長 岡田 敦子氏

岡田 敦子氏(以下、岡田氏):私の方からお話できればと思います。中計を策定していく中で、事業がメインではあるのですが、事業を支えるものとして人材というキーワードがありました。そこで、求める人材について考える機会を設けたんです。もともとは5項目あったのですが、中計を意識しながら、エッセンスを凝縮させようということで、5つから3つへと変更しました。ちょうど、中計策定と同時並行で進めていきました。

齋藤:変更を行うにあたって、何を軸にされたのでしょうか。

岡田氏:「挑戦を楽しむ人(主体志向)」「組織力を最大化する人(チーム志向)」「価値を提供する人(マーケット志向)」という3つになったのですが、そもそも以前の求める人物像を策定した時の想いは、残さなければいけないと考えました。その上で、全役員に対してインタビューを行い、要素整理をしながら凝縮させていきました。社長が常々「想いを大切に」とお話しされることを踏まえ、今回も「求める人物像で何を表現したかったのか」「時代の変化の中で何を残さなければいけないのか」を大切にしました。

齋藤:「組織力を最大化する人(チーム志向)」は、以前の求める人物像でははっきり描かれていなかった要素だと思います。

岡田氏:そうですね。仕事は一人でするわけではないので、チーム志向の要素を入れたいという声が、役員の皆さんから上がりました。

「総合エンタメ企業」を実現するための、シナジーを生み・行動を促す仕掛け

齋藤:水平展開をしていきたい時に、自分一人や自分の事業部だけでは完結できない。「総合エンタメ企業」となるためには、違う事業部やチーム、パートナーと協働していかなければいけないというメッセージが込められているようにも受け取りました。

岡田氏:現状維持ではなく企業として拡大しなければいけないという時に、一人でできる力は限られます。松竹単体ではなくグループ全体としても、「周りを巻き込む」「チーム志向」という要素は意識していきたいという意図がありました。

黒﨑淳史氏(以下、黒﨑氏):チーム志向という点については、皆が課題感を持っていると感じています。実際、一人ひとりが、プロデューサー/職人という側面を持って自負があるからこそ、融合しにくいところもあったのではないかと思います。ただ、個別に強みを持っているからこそ、シナジーを生み出せるはずだとも思うのです。今回、新・求める人物像から紐付いた評価にシナジーのような要素を組み込んだのですが、その理由は、融合することでより会社の魅力が深まるし、一人ひとりが活躍できると考えたからなんです。

後編-3人事部 人事戦略課長 兼 労政スタッフ 黒﨑 淳史氏

齋藤:新・求める人物像は、研修体系や人事評価にも反映させていらっしゃると思います。難しかったことなどあれば教えてください。

黒﨑氏:幾つかありますがひとつは、評価基準作成という点においては、目に見えづらいマインド面が評価しづらいということ。たとえば、「挑戦を楽しむ人」の要素として好奇心というワードを置いているんですが、評価基準の検討メンバーと「好奇心って評価しにくいよね」という議論になりました。どういった行動に表れた時に、好奇心があるとみなすのか。この具体化の部分は苦労しました。それから、評価基準運用という点においては、基準変更後のイメージが湧きにくいということ。弊社の評価は年に1回なのですが、期中の評価基準変更は避けるべきと考え、期初に社員に伝える場を設けました。部門単位で30数回実施しましたが、その時はまだ評価するタイミングではなかったので実感を伴わず、「ちょっとまだわからない」というのが社員の率直な印象だったと思います。例えば、「主体志向とチーム志向という言葉は、相反する言葉のように見えるが?」という疑問をもらいました。丁寧に説明し理解をしてもらえたとは思いますが、この制度を運用する以上、社員に理解をしてもらうために疑問に対して応えることは、今後も繰り返し続けていくべきことだと思っています。

生まれはじめたのは、「社員の話題にあがる」という着実な変化

齋藤:ありがとうございます。2016年に2020年ビジョンを「総合エンタメ企業」と掲げて以来、様々な取り組みをされてきたと思いますが、具体的に見えてきた変化があれば是非教えてください。


後編-4写真右:経営企画部 広報室 室長 村上 具子氏

村上具子氏(以下、村上氏):私が広報に来たのは120周年を迎える前年ですが、セグメントが違えばほとんど交流がない状態でした。120周年を機会に、どうやって会社の雰囲気を変えていこうかという、大きな話からはじまったと記憶しています。社長や役員から社員への発信が増えたことにより、遠いことだった会社の出来事は、日常生活の中で耳にするような少しずつ身近なものになっていった。緩やかですが変化してきました。広報のお話をすると社内向けの情報掲載サイトとしてポータルサイトがありますが、それを最初につくったのが120周年のタイミングです。まずはできることからと、無料のサービスを使って自分たちでつくりました。その後サイトをリニューアルし、今ではずいぶん認知が高まっています。何かあれば、「ポータルサイトに載せて」という言葉が聞かれるようになっただけでも、大進歩だと思っています。もちろん、ポータルサイトに載せて終わりではなくて、より多くの社員に反応してもらうことを意識して工夫しなければいけません。しかし、社内に新しいツールができて、そのツールについて口に出す場面が増えたということ自体が変化だと捉えています。2017年の11月に松竹公式のホームページもリニューアルして、これまで作品紹介のみに近かったページから、幅広い事業を紹介するものに変えました。ちょろ松というキャラクターをつくって広報Twitterをはじめたことも、かたい会社ということを考えると挑戦のひとつですね。


黒﨑氏:グループ横断での考え方が、ずいぶん当たり前になってきているのかなと感じます。これまでは、何かを考えたとしても松竹単体という人が大半だったと思いますが、グループ会社単位で考える機会が増えています。社内報もポータルサイトも、グループ単位ですし、社内報に人事制度改定のニュースを掲載する時にも、松竹単体の話ですが、「グループ会社のひとつである松竹株式会社の取り組み」という位置付けで取り上げています。何よりも、新・求める人物像と紐付いた制度であることにフォーカスして、グループ全体の皆さんに関心を持ってもらえるようにと考えています。

岡田氏:0だったものが2〜3になったという程度で、外部から見たら、変化度合いはまだまだとは思いますが、社員同士の会話の中で、中計や新・求める人物像についての話が出てくること自体が、変化だと受け止めています。関心がなければ口に出すこともないと思いますので、ポジティブな話であってもネガティブな話であっても、話題になるということ自体に意味があると考えています。

社員も役員も、皆が松竹グループで働ける幸せを感じられるように

齋藤:2020年ビジョン「総合エンタメ企業」について、部門を横断してお話をおうかがいしてきました。2020年を迎える頃には松竹はどんな会社へと、さらに変化しているでしょうか。

後編-5

 

村上氏:そうですね、2020年ってもうすぐなんですよね。その時には「松竹ってこんなこともやってるんだね」と面白い驚きを持って見てもらえる会社になっていたいと思います。自分たちが持っている歴史や財産は素晴らしいし、それを大切にしたい。でも、自分たちだけではできないことがあるとも思っています。他社とのコラボレーションで面白い変化ができるかもしれないし、意外な組み合わせを期待していただけたら。先日はニコニコ超会議で歌舞伎と初音ミクのコラボレーションがありましたが、あれは技術的な難しさ新さもさることながら、歌舞伎だからこそ話題になったと思っています。スーパー歌舞伎Ⅱワンピースもそうで、2.5次元の取り組みで素晴らしいものは他にもありますが、歌舞伎とのコラボレーションだから皆が驚いたわけです。真面目でかたいイメージのある松竹だからこそ、そのイメージを逆手にとっていきたいですね。

黒﨑氏:松竹グループで働いていてよかったなという人が増えたらいいなと思います。

村上氏:そうですよね、それはすべてにおいての基本ですね。

黒﨑氏:人事として思うのは、社員の皆さんは基本的に松竹という会社が好きなんですが、好きにプラスαがあったらいいなと考えています。たとえば、新・求める人物像の3つのどれかを武器にしていこうということでもいい。2020年はもちろんその先も起き続ける変化に対応していくために、好きにプラスαをする支援を、成長支援や能力開発という点で貢献していきたいと思います。

岡田氏:松竹グループに集う人たちが、会社の考え方に共感をし、ここで働いてよかったと思えることが究極的に目指すところだと思います。経営企画としては、そうなるように手助けしていきたいです。


貴重なお話、ありがとうございました!

後編-1


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