自販機業界全体が右肩下がりという厳しい状況の中で、株式会社JR東日本ウォータービジネスが展開するアキュアの自販機では、10年間で売上1.6倍の成長を見せています。しかも、業績悪化でテコ入れするのではなく業績が順調に推移する中で、リブランディングを決断。マネジメント層は親会社からの出向者が占める上、一定期間で入れ替わる会社特有の困難を物ともせず、ブランディングセオリーをことごとく覆す挑戦で、「10周年リブランディング」を実現できたのはなぜか。その理由に迫る。


プロフィール
株式会社JR東日本ウォータービジネスJRWC_tomita

取締役 企画本部長 富田 勝己氏
1994年東日本旅客鉄道㈱入社。設備投資計画の作成、商業施設・子育て支援施設の開発に従事。
2015年から㈱JR東日本ウォータービジネスにて、企画・総務・人事全般を担当。
特に「個人が最大の力を発揮する」組織作りに奮闘中。中小企業診断士。

 


株式会社フォワードisa_2018_1
取締役副社長 伊佐 陽介
早稲田大学卒業後、一部上場総合不動産デベロッパーで住宅事業商品企画・販売、
商業施設開発等に従事。その後株式会社リンクアンドモチベーションにてブランドマネジメント事業部
コンサルティング責任者を経て、2013年株式会社フォワードを設立。
“組織人事の専門性“と”マーケティングの専門性”を活かしたコンサルティングを得意とする。

 

イベント実施日
2019年3月13日(水)

業績好調の中リブランディングを実施した理由は、社員への旗印

伊佐陽介(以下、伊佐):株式会社JR東日本ウォータービジネスより富田さんをお迎えして、「業績好調のacureが、10周年でなぜリブランディングしたのか?」というテーマでお話をお伺いしていきます。

富田 勝己氏(以下、富田氏):JR東日本ウォータービジネスの富田と申します。JR東日本に入社して25年、出向して4年目になります。

JR東日本は鉄道会社ですので、何よりも安全第一。事故を起こさないように、何度も石橋を叩いてから渡る、堅実な会社です。一方で、JR東日本ウォータービジネスは、戦略子会社として設立され、「おもしろいことにとことん挑戦しよう」という風土があります。新しい自販機・サービス・商品の開発を積極的に進めています。

また、社員も80名程と少なく、全社員(出向者含む)の平均年齢は40歳ですが、プロパー社員の平均は30歳と、グループの中では非常に若い会社ということも特徴のひとつです。

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「acure」というのは、弊社オリジナルの自動販売機や商品につけている名前です。自動販売機の設置場所はJR東日本の駅中が中心で、8千台程展開します。

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当時のacureは、一筆書きの椅子の絵をロゴにしていましたが、その他の事業もそれぞれロゴをつくるなど、俯瞰してみるとバラバラでわかりにくい展開をしていました。

「自動販売機ではなくて、一つの店舗として“acure”と呼んでほしいよね」という会話が社内でありました。しかし、「読みづらいのではないか」との反省や事業毎のブランドもロゴやフォントに統一感がなく「お客さまから見たら、非常にわかりにくい状態になっているのではないか」という問題意識が共有されるようになりました。
なにより、私達社員もすっきりしない思いがありました。

伊佐:「ロゴなどの統一感がなくてよくない」という声があったとは言え、売上自体は10年間で1.6倍近くに伸びていた。十分な成長がある中で、なぜ、あえてパワーのかかるリブランディングを決断したのでしょうか。

富田氏:実は中期ビジョンをつくったタイミングでもあり、目指す姿を実現していくためにも、統一感が欲しかったのです。そこで、対外的に自分たち(=ブランド)をどうアピールしていくのかはもちろんですが、大事なのは「何よりも社員だ」と考えました。結局、商品サービスをつくって売っていくのは社員自身なので、社員がどれほどの思いを持ってアピールしていけるのかに、かかっていると思いました。

伊佐:社員への旗印として、という意味合いが大きかったということですね。

富田氏:はい、そうです。

伊佐:「なぜ」という部分をお聞かせいただいたところで、本題に入っていきたいと思いますが、まず「リブランディングで何をしたのか?」について、具体的にお聞かせいただけますか。

打上げ花火で終わらせない。「仕組み」でリブランディングを実現する

富田氏:リブランディングと言うと幅広いですが、大きくはお客さま向け(対社外)と社員向け(対社内)に、それぞれ何をやったのかということかと思います。

 

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ちょうど会社の10周年のタイミングと重なっていたこともあって、10周年プロジェクトチームとリブランディングのプロジェクトチームが同時に走っていたという前提があります。リブランディングのプロジェクトチームは、部長を中心に7名のメンバーで進めました。

最初にブランドターゲット・コンセプトを策定して、それを元に、社内外に対してどう発信していくかを決めていったのですが、対社外のアウトプットいう意味では、新ロゴに名刺・クレドカードにムービーなどを作りました。ムービーは協力会社さんにも出演いただいて、一緒にリブランディングを実現していくんだという思いを込めました。

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対社内の施策としては、社員への制度説明をする共有会、クレドに沿った階層別研修、年2回のクレド表彰制度等に取り組み、リブランディングの社員への理解・浸透と定着化を図りました。

当時の社長からは、「打上げ花火で終わらせてはいけない」と常々言われていたこともあり、継続できる仕組みとして、人事制度へも落とし込みました。子会社という特性上、どうしても部長以上は出向者で、3年間で入れ替わりが発生する。人が変われば引き継がれないリスクが高まりますが、制度まで落とし込めば、最低限は維持できるという思いがありました。

伊佐:フォワードとしては施策のほぼすべてをお手伝いしているのですが、その中でクレドについて少しお話しできればと思います。クレド策定にあたって、あえて若手社員の皆さんに議論してもらうという形式を選びましたが、非常にパワーをかけたプロジェクトでした。

3時間のワークショップを8回。それだけではなく、ワークショップの合間には部長陣を集めてのプレゼンや、次回ワークショップに向けたフィードバックをもらうなど、今振り返っても、このプロジェクトがメインと言ってもおかしくないほどのパワーのかけ方でしたね。

若手社員のプロジェクト登用など、タブーをことごとく覆して成功したリブランディングプロジェクト

富田氏:そうですね。非常に時間を費やしました。ただ、あのタイミングでなければできなかったことだと思います。社長やマネジメント層の熱意・社員の思い・準備ができる環境等のこれら会社の機運の高まり。「すべてが揃う今だからこそ、やらなければ」という気持ちで取り組んでいました。

当時の経営会議は出向者だけで運営されており、「会社がよりよく存続していくためにも、早くプロパー社員を育てなければいけない」との強い危機感をマネジメント層は共有していました。だからこそ、育成という意味を込めて若手社員を巻き込んでプロジェクトを進めました。

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伊佐:富田さんのお話に逆行するようですが、リブランディングや周年のプロジェクトにおいては、人材育成の観点は持ち込まず、本来のプロジェクトの目的を遂行できるメンバー選定を推奨しています。

と言うのも、中途半端に育成視点を盛り込んで若手社員を巻き込むと、極めて戦略的な視点が求められる「ブランド」が曖昧化したり、プロジェクトが不要に長期化したりするからです。

ちなみに、全社員巻き込み型というのもおすすめしません。ブランドの浸透を狙って、プロセスにできるだけ多くの社員を巻き込もうと考えるケースは散見されますが、中途半端な巻き込みしかできていないことが大半。当事者意識も育たないことが多いからです。

ただ御社の場合は、普段私たちがクライアントに「避けましょう」「これはダメです」と言ってきたものを、ことごとく実現していかれました。育成の観点で若手メンバーをプロジェクトに登用したこともそうですし、ロゴマークを最終的に投票で決められたというエピソードもそうです。

ロゴマークなどのクリエイティブの決定は、トップの独断で決められなかったり、事務局が反対意見をつくりたくなかったりして、社員投票で決めようとするケースは多いです。ただ、投票の観点はどうしても揃えられないので、好き嫌いを出し合うだけになり、結果、票が割れてしまってまとまらなくなる。ただし御社は、社員投票をした上できちんと意見がまとまって、ロゴが決定していきました。

どこの会社でも真似できることではないですが、成功要因を挙げるとすると、若手メンバーに任せる部分と、引き受ける部分のバランス。さらには、場面に応じて決断するマネジメント層の腹ぐくりでしょうか。相互に信頼関係があったからこそ実現できたことだと思います。

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続いて、リブランディングの後何を実行したのかについて、うかがいます。

ブランドマネジメント成功の秘訣は、従来の部門目標とブランド指標をリンクさせ、確実にPDCAを回すこと

富田氏:リブランディングの実施後は、KPI(KeyPerformanceIndicatorの略。重要業績評価指標)を設定して振り返りをしていることがベースの活動で、人事制度や表彰制度・階層別研修にブランド浸透度調査は、その後も続けています。

伊佐:ブランドロードマップということで、KPIを立てて実行しているものですが、JR東日本ウォータービジネスさんの素晴らしい点は、従来の目標管理に加えて、ブランド視点の目標や管理指標も設けて、双方共に具体的なPDCAを回せていることにあると思います。

しかも、各部門が次年度の戦略を立てる段階で、全部長を集めて、KPIに対しての振り返りと、次年度、部門目標とブランドの指標をリンクさせるためにどうするのかを議論する場を、年に1回設けている。ブランドマネジメントという意味では、非常に先進的な取り組みです。

それから、先ほど富田さんが人事制度にまで落とし込んだというお話をされていましたが、制度にまで着手される会社さんはそう多くありません。最近でこそ、バリューに沿った目標設定や評価をする会社が増えてきましたが、ここまで一貫して、ブランディングやクレドをベースにして、そこにマッチする人事評価や育成体系を設計する会社さんはないと思いますね。

また、クレドを策定された際に、「本来は人事制度にまで落とし込むべきです」と申し上げたところ、「やりましょう」とその場で即断されたことは、個人的に非常に印象に残っています。

富田氏:ありがとうございます。

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伊佐:私たちは常々、ブランディングを実現していく上では「一貫性」と「継続性」が鍵になるとお話ししているのですが、まさに「一貫性」に共感してくださったこその踏み込んだ決断。初年度で、人事制度策定・運用や、ブランドロードマップ(KPI)策定・運用まで実現されたのは、本当に見事だったと思います。

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最後に、本日おうかがいしてきた内容を元に、「周年リブランディング」のポイントを4点にまとめてみました。リブランディングだけではなく周年も重なっているので、「周年リブランディング」と呼ばせていただきます。

①は、出向者の入れ替わりも含めた、起こり得るリスクをきちんと描いたということ。②は、acureの名の下に様々な事業が展開されていくということで、社員にとって旗印となるacureの位置付けを明確化し、acureを軸に据えた展開を考えたこと。

③は、ボードメンバーが一気に仕組み化まで推進できたこと。実際、周年イヤーの後に社長交代もされていますし、仕組みは翌年以降に取り掛かりましょうというスタンスであれば、今のようなスピード感での運用は実現していなかったはずです。
④は、ボードメンバーがこのプロジェクトにのめり込んだことを発端として、社員も巻き込んで行けたことでしょうか。

JR東日本ウォータービジネスさんはリブランディングの他に周年のプロジェクトチームを走らせていたこともあり、普段から部署横断で様々な取り組みをしている会社さんでもあります。

社員が様々なプロジェクトに積極的にかかわることがポジティブな風土として根付いているからこそ、多くの社員を巻き込むことができたと言えますが、一気に仕組みにまで落とし込めた先進的な事例だと思います。この事例が、多くの皆さんの参考になればと思います。

 

多くの方々にご参加頂きました。ありがとうございました!

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